野球肘Q&A

資料2.投球数について

日本臨床スポーツ医学会が1994年に発言した「青少年の野球傷害に対する提言」を参考にして下さい。
指導者や父兄の皆様にもこのような提言がある事をご理解頂けると幸いです。


1.青少年の野球障害に対する提言(全文)

スポーツを楽しむことは青少年の健全な心身の育成に必要である。野球はわが国における最もポピュラーなスポーツの一つであるが、骨や関節が成長しつつある年代における不適切な練習が重大な障害を引き起こすこともあるので、その防止のために以下の提言を行う。

1

野球肘の発生は11、12歳がピークである。したがって野球指導者はとくにこの年頃の選手の肘の痛みと動きの制限には注意を払うこと。
野球肩の発生は15、16歳がピークであり、肩の痛みと投球フォームの変化に注意を払うこと。

2

野球肘、野球肩の発生頻度は、投手、捕手に圧倒的に高い。
したがって各チームには、投手と捕手をそれぞれ2名以上育成しておくのが望ましい。

3

練習日数と時間については、小学生では、週3日以内、1日2時間をこえないこと。
中学生・高校生においては、週1日以上の休養日をとること。個々の選手の成長、体力と技術に応じた練習量と内容が望ましい。

4

全力投球数は、小学生では1日50球以内、試合を含めて週200球をこえないこと。
中学生では1日70球以内、週350球をこえないこと。
高校生では1日100球以内、週500球をこえないこと。
なお1日2試合の登板は禁止すべきである。

5

練習前後には十分なウォーミングアップとクールダウンを行うこと。

6

シーズンオフを設け、野球以外のスポーツを楽しむ機会を与えることが望ましい。

7

野球における肘・肩の障害は、将来重度の後遺症を引き起こす可能性があるので、その防止のためには、指導者との密な連携のもとでの専門医による定期的検診が望ましい。

日本臨床スポーツ医学会学術委員会の提言(1994)より

  

いかがでしょう。
スポーツ少年団などでは、週末の土曜・日曜にだけしか、まとまった練習時間を確保出来ないという実情もあると思います。上記の提言内容を書き換えて見ます。

年齢層

練習量

全力投球数
(1日)

全力投球数
(1週間)

小学生

3日以内/1週間
1日2時間以内

50球

200球

中学生

週1日以上の休養日

70球

350球

高校生

週1日以上の休養日

100球

500球

・オフ期間を設け、その時期には野球以外のスポーツを楽しむ。

・一日に2試合の登板は禁止。

 

米国では、子供の投手において投球は3回までとしています。

いずれにしても、第二次性徴期以前の成長軟骨は脆弱です。その強度は、おおよそですが靭帯の1/5から1/20。とても弱い組織です。
投動作を行うと、成長軟骨などには何らかの負担を掛けます。負担が掛かった成長軟骨などは、その後に負担を掛けなければ成長に伴い修復されていきます。

遠投の練習にも注意が必要です。
いわゆる肩の強い子供と肩の強くない子供がキャッチボールをする際、距離が伸びて遠投を行う際には、肩の強くない子供は必死に距離を投げようとする事になります。
無理をして投げるという事になりますので、肩関節や肘関節に負担が掛かってしまうのは明白です。
予防や復帰時の一案ですが、キャッチボールの際には肩の強さが同程度の子供をカップリングし、相手の胸に痛みを伴わずに投げる事が出来る距離での実施なども参考にして頂ければ幸いです。

子供は、多少痛くてもすぐには訴えません。
監督を初めとした指導者・ご両親などに、スポーツによる障害をよく理解して頂き「痛みはスポーツ障害の始まりである」ことを認識して、早期に専門医を受診することが大切です。


引用資料:青少年の野球障害に対する提言
参考文献1:日本臨床スポーツ医学会整形外科学術部会編,『野球障害予防ガイドライン』,文光堂,1998.

 

 

  

2.「若年層投手に関する意見報告書 2009年8月」米国スポーツ医学研究所(訳文)
  「Position Statement for Youth Baseball Pitchers」 August 2009

若年層の投手の肘や肩の負傷が増加する中、周囲の大人たちはこれらの負傷を予防するための手を打つ必要があります。特にオーバーユース(部位の酷使)が危険要因だと知り、その点について注意してください。 また、未熟な投球技術や不十分な体力も負傷の原因とだと言われています。
以前には変化球を投げることが危険要因だといわれたことがありましたが、現在もそれを支持するような研究結果は見当たりません。しかしながら、若年層の投手は身体的にも成長過程であり、神経筋制御も十分でなく、ましてや適切なコーチから正しい変化球の投球技術を教わる機会も多くありません。若くして変化球をなげることは、結局は腕を疲労することになり速いボールを投げるための技術の習得をも妨げることとなり逆効果になるかもしれません。


成長期野球ピッチャーの怪我・障害を防ぐ為の推奨。(要約)


  • 疲労のサインを観察し対応してください。ピッチャーが疲労を訴えたりあるいは見た目に疲労していたりしたら、休ませてください。
  • 1年につき少なくても2~3ヶ月(出来れば4ヶ月)の間、一切投げない事。
    投球数は別表参照(2010年リトルリーグ規則)
  • シーズンを重ねて複数のチームに所属しないで下さい。
  • 出来るだけ早く正しい投球動作メカニズムを学んでください。
  • レーダーガン(スピードガン)の使用は避けてください。
  • ピッチャーはキャッチャーを兼任しないで下さい。投球数が増え、怪我障害のリスクが増します。
  • ピッチャーが肘または肩の痛みを訴えるならば、専門医を受診してください。
  • 成長期ピッチャーには野球と他のスポーツも楽しむように促してください。参加して色々な身体活動を行う事は、成長期の運動能力とスポーツに対する関心を高めてくれます。

---補足説明---

  • 1.現場の指導者の皆さんは普段から子供達(選手)を良く見ていらっしゃいます。コンディションの低下など小さなサインを見つけて頂く最適任者でもいらっしゃいますので、是非とも良く観察してあげて下さい。
  • 2.やはり1年間の中には完全ノースローの時期も必要です。
  • 3.日本とは考え方の違いもあります。アメリカでは小児期には複数のスポーツを行い(野球・バスケットボール・アメリカンフットボール・ホッケー・陸上など)、大学入学時や20才前後で種目を絞る事の方が一般的であり、小児期からひとつの種目に絞っているケースの方が少ないようです。
  • 6.キャッチャーはピッチャのように全力投球を行う機会は少なくても、野球肘や野球肩などの投動作障害症候群の発生はピッチャーと同じ程度です。
  • 7.この文内には「軽い症状なら様子を見る。もしくは翌日に症状がなくなっている場合は様子を見る。」と言った内容は記載されていません。痛みを訴えた場合は無条件に受診して下さい。また「専門医」へ受診して頂く様記載されています。
  • 8.将来「いいスポーツ選手」「タフな選手」「実力発揮度の高い選手」に育てる為には必要な条件です。

 

〈ゲームにおける投球制限数の例(Example limits for number of pitches thrown in games)〉

年齢(歳)

2006年の

USA野球ガイドライン

2010年の

リトルリーグ野球規則

 
Daily limits(1日の限度)

17-18歳

該当なし

105球/日

15-16歳

該当なし

95球/日

13-14歳

75球/ゲーム

11-12歳

75球/ゲーム

85球/日

9-10歳

50球/ゲーム

75球/日

7-8歳

該当なし

50球/日

 
Weekly limits(1週の限度)

13-14歳

125球/週; 1000球/シーズン; 3000球/年

 

11-12歳

100球/週; 1000球/シーズン; 3000球/年

9-10歳

75球/週; 1000球/シーズン; 2000球/年

7-18歳

 

21-35投球 --> 1日非投球;
36-50投球 --> 2日非投球;
51-65投球 --> 3日非投球;
66-    投球 --> 4日非投球;

興味深いのは、2006年では「ガイドライン guideline」とされていたものが2010年では「レギュレーション規則 regulation」と変更されている点です。”レギュレーション”は法規とも訳されるように、ガイドラインよりもレギュレーションの方が、守る必要性が高くなります。

 

原文はこちら:「Position Statement for Youth Baseball Pitchers」 August 2009

 

 


3.野球肘・野球肩 日米比較

2010年11月の記事に、「アメリカの野球のケガの頻度は非常に減少している」と言うのがありました。 以前からアメリカ少年野球のいわゆる野球肘・野球肩の発生頻度は、日本と比較して少ないとされていました。 それがさらに減少していると言うのです。以前から少ないとされている理由はいくつかあると思います。 例えば、日本の子供がキャッチボールを始める時にはドッチボールから始めることが多く、 アメリカの子供がキャッチボールを始める時にはアメリカンフットボールから始めることがごく普通だと言う事にも起因していると思います。 (ドッチボール投げはPie Throw=パイ投げです。パイ投げ動作が野球やバドミントンなどのオーバーヘッドモーションに良くない事は周知の通りです。)
また、投球数や頻度などに関するガイドラインやレギュレーションそのものにも違いがあり、周知やコンプライアンスの程度にも差があるのが現状と思います。 そんな中、興味深い記事がありました。

ココから

「アメリカ野球のケガの頻度は非常に減少している」
(ココで言う「ケガ」は、少年野球の野球肘・野球肩を指しています)
子供たちへの助言(「助言」について、原文では「chips」となっていますので「ヒント」と言う解釈でよいと思います)

 * 痛みがあったら投球をやめる。
 * ウオーミングアップを必ず行う。
 * ウオーミングアップは軽いキャッチボールから徐々に速度と距離を増やす。
 * 試合の後の投球練習は禁止。
 * 投球の後は最低24時間はウデを安静にする。
 * 投球練習だけでなく、下半身や体幹の筋力トレーニングに努める。

2010年の記事ですがいかがでしょう。
「お子さんの夢を、投げ過ぎによる怪我で、小学校や中学校でつぶさないようにする事が大切です。」と言った目的で作られているようです。 皆さんは、どのように感じ受け止められますでしょうか。
これらは、子供たちを野球肘・野球肩から守るために有意義な内容だと思います。 特に後半の3文は具体的でわかりやすく、「日本臨床スポーツ医学会の提言」や「平成23年の日本軟式野球連盟の新規取り決め事項にある少年部・学童部の投球制限について」にも重複する内容でもあり、価値の高い3行と思います。 最後の3行、言い方を変えると次のような解釈になります。

* 試合の後は投げない。
* 練習でも試合でも平日のキャッチボールでも、投げた後は丸一日以上はウデを休ませる。
* もちろんコンディショニングも大切!